格子構造をTPUで出力するとき、充填率の数字をどう決めているだろうか。経験則で「25%にしておく」と言われることが多いし、わたし自身もかつてはそのひとりだった。しかし昨年の秋、ラボで三種類の充填率を揃えて圧縮試験にかけてみると、単純に「硬い・柔らかい」では語れない複雑な差異が現れた。応力-ひずみ曲線の形が根本から違う、エネルギー吸収の効率が想定とは逆転する区間がある——そういった事実が目の前に並んだとき、直感に頼った設計がいかに危ういかをあらためて感じた。この記事では、MeshLab 31で実施した試験の具体的なデータをできるだけ正直に示しながら、充填率を選ぶときの思考の筋道を一緒にたどってみたい。
試験体の設計と出力条件——まず前提を揃えることへのこだわり ¶
試験体はすべて直径40mm、高さ25mmの円柱形とし、内部をダイアモンドセル格子で満たした。充填率は15%・25%・35%の三水準。外皮の厚みは一律1.2mm(3ライン)に固定し、充填率の変化だけを独立変数として扱えるよう設計した。材料はBASFのUltimaker TPU 95Aで統一し、プリンタはBambulabのX1 Carbonを使用。ノズル温度230℃、ベッド温度45℃、印刷速度35mm/sで全ロットを同一セッション内に出力した。各水準5個、計15個を試験に用いた。試験機はShimadzuのAGS-Xシリーズ、クロスヘッド速度は2mm/minとし、ひずみ50%まで連続荷重をかけてデータを記録している。試験体間のばらつきを確認するため、5個の平均値と標準偏差も算出した。
応力-ひずみ曲線が語ること——三本の線が描く三つの物語 ¶
グラフに三本の曲線を重ねると、最初に目に飛び込むのは「プラトー領域の長さ」の違いだ。充填率15%の試験体は、ひずみ約8%で初期の線形領域を抜けたあと、約30%ひずみに達するまで応力がほぼ0.08MPaのまま水平に推移する。この平坦な区間がいわゆるプラトーで、セルが順次座屈しながらエネルギーを吸収する理想的な挙動を示している。25%になるとプラトーの開始点が約12%ひずみまで後退し、応力レベルは0.18MPa前後に上がる。しかし水平性がやや失われ、緩やかな右肩上がりが混じり始める——これはセル壁が互いに干渉し始めているサインだ。35%では顕著で、プラトーと呼べる区間はほぼ消滅し、ひずみ増加とともに応力が単調に増加する曲線に近づく。この段階では格子というより連続体の圧縮に近い挙動を示しており、衝撃吸収体としての設計思想とは相性が悪い。
エネルギー吸収量の実測値——数字が直感を裏切る場面 ¶
ひずみ50%時点までの応力-ひずみ曲線の面積積分、すなわち単位体積あたりの吸収エネルギー(kJ/m³)を計算すると以下のようになった。15%:約42 kJ/m³、25%:約78 kJ/m³、35%:約131 kJ/m³。絶対量だけを見れば35%が最も多くエネルギーを吸収しているように見える。しかし材料使用量に対する効率——すなわちエネルギー吸収量を充填体積で割った「比吸収エネルギー」を計算すると話が変わる。15%:約280 kJ/m³(格子材料単位)、25%:約312 kJ/m³、35%:約374 kJ/m³という数字が出る。比吸収エネルギーでも35%が高いが、その差は絶対量ほど劇的ではない。さらにひずみ20%という「一撃目」の領域に限定して面積を切り出すと、15%の比吸収エネルギーが25%・35%を上回る区間が存在する。軽量性が最優先される用途では、この区間での比較が設計判断を左右する。
繰り返し圧縮への耐性——一度きりの試験では見えない疲労の差 ¶
単発の圧縮だけではなく、30%ひずみまでの繰り返し圧縮試験(5サイクル)も実施した。1サイクル目と5サイクル目の最大応力を比較すると、15%では約18%の応力低下、25%では約12%、35%では約7%という結果が得られた。つまり充填率が低いほどヒステリシスが大きく、繰り返し使用での応力低下が顕著だ。スポーツ用具のインソールや繰り返し衝撃を受けるパッドのように「何度も使う」前提の設計では、35%前後の充填率の方が形状の保持と荷重応答の安定性という点で有利になる。一方で一度きりの衝撃吸収——ヘルメットのライナーやパッケージ緩衝材——では15%の「使い捨て的な大変形」が合理的な選択肢になり得る。用途の時間スケールが充填率の最適解を変える、という認識がここで生まれる。
密度と質量の実測——カタログ値と現実のギャップ ¶
出力後の試験体をキャリパーで採寸し、精密天秤で質量を計測した。公称充填率15%の試験体の平均質量は3.21g、25%は4.87g、35%は6.53gだった。スライサーが予測する質量(Bambu Studioの表示値)との差を確認すると、15%では+2.3%、25%では+1.8%、35%では+4.1%とやや過剰になる傾向があった。35%で誤差が大きい理由として、セル壁が密集するゾーンでの材料滞留(いわゆるperimeter overlap)が増えることを推定している。設計段階の質量計算では、スライサー予測値に対して充填率が高いほど保守的なマージンを取る必要があることを示している。
設計の現場でどう使うか——充填率選定のための思考の筋道 ¶
ここまでのデータを踏まえて、設計時の判断フローを自分なりにまとめてみる。まず「何回使われるか」を問う。繰り返し使用が前提なら25〜35%、一度きりの衝撃吸収なら15〜20%を出発点にする。次に「変形量の上限はどこか」を問う。プラトー領域が必要なら35%を避け、15〜25%の範囲で調整する。そして「重量制約はどの程度厳しいか」を問う。グラム単位の制約がある場合、比吸収エネルギーのグラフを参照しながら充填率を下げる方向で検討する。最後に「出力の再現性はどれだけ要求されるか」。試験ではばらつきの標準偏差が充填率15%で相対的に大きく(最大応力の変動係数7.2%)、35%では3.1%と安定していた。量産品や医療補助具のような高い再現性が求められる場合、35%近辺の方がロットごとの品質安定に寄与する可能性がある。
この試験の限界と、次に確認したいこと ¶
正直に言えば、今回の試験には幾つかの限界がある。まずセル形状をダイアモンドセルに固定しているため、ジャイロイドやオクテットトラスでは異なる結果が出る可能性が高い。次に試験速度2mm/minは準静的条件であり、実際の衝撃荷重(たとえば落下試験)への外挿には慎重さが必要だ。TPUは粘弾性材料であり、ひずみ速度依存性が大きい。また、温度条件を室温(約23℃)に固定しているが、TPUの力学特性は温度に敏感で、0℃と40℃では曲線の形状が相当に変わる。次のステップとして、ジャイロイドセルでの同等試験と、落下試験機を使った動的条件での比較を計画している。データが揃い次第、またここに記録する。
充填率という一つの数字が、応力の応答・エネルギー効率・繰り返し耐性・出力ばらつきという複数の軸を同時に動かす。そのことをデータとして目の前に置いてみると、「とりあえず25%」という慣習がいかに多くの情報を見落としているかが見えてくる。この記録が、あなたの設計の次の一手を少し具体的にする助けになれば、試験体をセットした甲斐があったというものだ。